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平成の名勝負 1

 このタイトルで、多くのボクシングファンが思い起こすのは、
日本ジュニア・フェザー級タイトルマッチ マーク堀越 vs 高橋ナオトの一戦だろう。

 平成元年1月22日、新たな時代の幕開けとなるこの日、日本のボクシング史上に残る素晴らしい試合は行われた。
今、試合の経過をノートで確認しながらも涙がこみ上げてくる。

 高橋ナオトは19才で日本バンタム級王者になった輝けるホープだった。
早く王座に上がった宿命で、身長の伸びによる減量苦から2連敗を喫し、一つ上のジュニア・フェザーに階級を上げて再スタートを切った。
 勝っても負けても観客を熱狂させる貴重なキャラクターの持ち主だった。
明るい笑顔と朴訥とした飾らない性格も人気の理由で、年老いた阿部会長との名コンビは後楽園ホールの花だった。

 対するチャンピオン、マーク堀越はアメリカのサクラメント出身で八戸のベースに来ていたことがきっかけで八戸帝拳ジムからデビュー。黒人選手らしく素晴らしいバネと柔軟性を備えた無敵の王者だった。日本タイトルで満足する器ではなく、ゆくゆくは世界タイトルを、と期待された本格派である。ハンサムで陽気なマークは女性ファンも多く、日本ボクシング界の金の卵といった存在だった。

 1年をかけてジュニア・フェザーの身体を作り、満を持して日本タイトルに再挑戦に来たナオトも、連勝街道まっしぐらでさらに上を狙うマークもどちらも絶対に負けられない試合となった。僕らファンの方も、どちらにも勝たせたい、どちらも負けさせたくない、そんな思いで試合を見ていた。負けて欲しくない彼らのうち、どちらかが負けることになるのだ。
一瞬も目をそらすことができない、そんな緊張感で見ていた。

 序盤、2ラウンドまでは、全くの5分と5分だった。パンチ、コンビネイションともに多彩なマークに対して、ナオトは一撃必殺の右ストレートを武器にプレッシャーをかけていく。右ストレートが強いということは、相手にとって非常にこわいものなのだ。レベルの高い選手ほど、そのこわさを知っている。容易に中には入れない。

しかし、3ラウンドに均衡がくずれる。マークのコンビネイションについていけなくなったナオトはグロッキーに陥る。なんとかゴングに救われたが、バンタム時代よりスピードが落ちていたナオトに比べ、元からのジュニア・フェザーであるマークは抜群の身体のキレだった。

 誰もがマーク圧勝と思った4ラウンド、仕留めにきたマークのパンチが大振りになった瞬間、ナオトの右ストレートがカウンターで炸裂!逆転のダウン!立ち上がったマークに対して追い討ちをかけたナオトは、もう一度ダウンを奪う。身体の柔軟なマークは倒されながらもダメージを最小限にくいとめ、ゴングに救われる。

 ここからがマークのすごいところで、5ラウンドをテクニックでしのぎ、ダメージを回復させると6ラウンド7ラウンドと逆転し、ナオトを防戦一方に追い詰める。スタミナ、根性、スピード、テクニック、素晴らしい選手だ。
8ラウンド、ついにナオトは捕まり、マークの左フックで大木が倒れるようにダウン!
ダメージは深刻だった。場内ほとんどの人がマークの K.O. 勝ちだと思ったそのつかの間、ナオトは奇跡のように立ち上がった!全身が鳥肌立ったのを感じながら、僕は
「ナオトーーー!」と叫んでいた。

 8ラウンドを逃げ切ったナオトは、9ラウンド開始後もフラついていた。
とどめを刺しにきたマークは正面からまっすぐに踏み込んだ。ここで、ナオトが本能的に右カウンターを打ち、マークの顎に炸裂。マーク不覚のダウン!
効いていない、とアピールしながら、立ち上がったマークにナオトは最後の力を振り絞って攻める。マークのガードが開いた一瞬、腰も肩も思いきり回したナオトの渾身の右ストレートがヒットし、再びダウン!
立ち上がったマークは膝がガクンガクンになってまともに立てない状態のまま、幽霊のように島川レフリーを探し、ファイティングポーズをアピール。しかし、これ以上は無理だった。島川レフリーが試合終了を告げ、マークを抱きかかえたとき、白コーナーのナオトは両手をあげて天をあおいだまま、精根尽きたように膝をつき、倒れこんだ。

 ダウン応酬5度。ナオトのダウン寸前のグロッキー状態もかぞえれば、何回、形勢が逆転しただろう。試合終了のあと、開場はとんでもない熱気が渦巻いていた。感動が消えない。
さめない。そこを立ち去ることができずに、ずっと立ち尽くしていた人が何人もいた。


 輪島ジムにも、あの試合を見てプロになったという選手がいたが、誰かの人生を変えてしまうほどの力をもった試合だったと僕も思う。

 その後、マークもくずれ、ナオトも逆転 K.O.の試合を続けるが、試合ごとにスピードが落ち、ディフェンスができなくなっていった。ふたりとも世界のベルトは巻けずにグローブを置くことになったが、しかし、あの試合の感動は、消えることはないと思う。
今、思い返して、あの試合には、勝者も敗者もなかったといえる。二人とも、勝ちではなく、そして負けでもなかった。
世界タイトルという勲章は手にできなかったが、それよりももっと輝いていた日本タイトル戦だった。


 阿部会長は亡くなり、JBスポーツジムを開いた高橋直人は、苦労の末、福島学という世界ランカーを育てている。時代は移り、人も変わっていく。時代を超えて変わらないものを人に与えることができる人間は、ほんのひとにぎりだ。
マーク対ナオト。この試合は、時代を超えて語り継がれるだろう。選手たちの命がかけられた数え切れないほどの試合の中で、特別に輝く宝石のような試合だった。
| 「格闘技」百番勝負 | | comments (3) | trackback (0) |
高橋ナオト会長もかなりお太りになられてましたね。
時代の流れはときに残酷です。

あの試合が行われたのは、わたしが高3のときで
ちょうど最後の共通一次試験(いまのセンター試験)のあった日でした。
うちの学校のほかの生徒はほとんどそれを受けていたのですが、
当時まったく勉強していなかったわたしは、受けずにこの試合を観ていました。
偶然ですが、共通一次など受けなくてほんとよかったです。

高橋はいまのボクシング界の主流にのれば、世界タイトルに挑戦していても
おかしくはなかった選手だったと思います。
しかしそこは阿部会長、国内で“無敵”を証明しなければ世界タイトル戦は
お預けだという方針だったのでしょう。
実際、バンタムで小林や島袋といった選手に負けていましたし、
J・フェザーではマークに勝たない以上、“国内最強”を証明できないですからね。

マークは打たれもろいかわりに回復ははやいタイプだったように見えましたが、
高橋は島袋戦の印象から、打たれ続けても極限まで耐えるタイプに思えたので、
高橋がダウンしたときは正直「もうダメだな。」と思いました。
本人もあのへんの記憶はほとんどないと言ってましたね。
浜田さんじゃないですが、ほんとボクシングは“スポーツ”とは呼べないと思います。

フィニッシュ・ブローの右ストレート、カメラに写ってないんですよね。
そこさえ押さえていれば、最高の中継だったんですけどね。
| にっし〜 | URL | | 2005/06/18 10:20 PM | oIErSHOw |
そうそう。最後の右は中継ではもれちゃってるんですよね。

多分、3カメくらいの中継体勢だったのに、ディレクターが興奮のあまりスイッチングできなくて、選ばれなかったラフの画像は残ってなかったのかもしれません。

でも、開場にいた人には永遠の勲章です。

音楽もライブが命です。
| 小林 純 | URL | | 2005/06/20 02:36 AM | jOWkKDdM |
コメント失礼致します。
グーグルで<高橋直人vsマーク堀越>のワード検索でこのblogに辿り着きました。

実はわたくしの兄が昔ボクシングをやっていて
高橋さんとマークさんのこの試合がもう一度どうしても観たい。
でもビデオやDVDなどが手に入らず探して欲しい、と私に連絡がありました。

兄はパソコンオンチなので代わりに私が。。。
とゆう感じです。



兄はプロのライセンスをとるまでいったのですが
家庭の状況などでボクシングの道を断念し
今は普通に一児の父、とゆう感じです。

とても真面目で仕事も頑張っている兄の力になれたら、と思い
この試合のビデオを探してどうにか渡してあげたい。
ボクシングを好きだった気持ちに応えたい
と思い探している次第です。
YOU TUBEに投稿動画はあったのですが
兄にとって、とても大事な思い入れのある試合らしく
どうしてもビデオやDVDで欲しいようです。


このようなコメント欄にメッセージを送るのは
失礼かと思い勇気もいったのですが
もし、風りんさんがこの試合のDVDやビデオ等を所有なさっていましたら
どうか、ダビングなどお願いできないだろうか、とメッセージしましたm)__)m

お手数をおかけしてしまうことなので
もちろん送料や御礼など用意させていただけたら、と思っています。


本当に急でぶしつけなメッセージでしたら申訳ありません


もしよかったら
またこのblogを覗かせて頂くので
レス頂けたら本当に嬉しく思いますm)__)m

宜しくお願い致します
| なつ | URL | | 2008/09/06 07:31 PM | EeonU8oA |









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